「好き」を仕事にし続けるための花屋バイブル
〜現場スキルと経営戦略、20のレッスン~
「基本は覚えたけれど、どうすればもっと魅力的なアレンジメントが作れるんだろう?」 Lesson1で解説したアレンジメントの基本法則は、どんな時でもバランスの取れた作品を生み出すための、揺るぎない土台です。しかし、お客様の心を掴み、「なんだか素敵」という言葉を引き出す作品には、もう一歩踏み込んだ応用技術が宿っています。

このLesson2では、あなたの作品に深みと個性、そして生命感を与えるための3つの応用テクニックを詳しくご紹介します。
- 奥行き: 三方見のアレンジメントでここが一番肝心、空間の広がりを生む技術。
- 透ける・飛ばす・遊ぶ: レースフラワーや千日紅、ニゲラなどの軽やかな花材を使いこなし、立体感と動きを演出するスキル。
- 流れに任せる: 自然の造形を活かし、作為的ではない美しさを引き出す哲学。
これらの技術は、単なるテクニックではありません。お花の持つ本来の美しさを最大限に引き出し、見る人の心に響くアレンジメントを創り上げるための「視点」そのものです。一つひとつ丁寧に学び、あなたの作品を次のステージへと引き上げていきましょう。

1. 三方見で重要となる「奥行き」の出し方
ラフルールのお花教室では、初級カリキュラムで四方見の基本を学んだ後、復習を兼ねて三方見のアレンジメントに取り組みます。三方見とは、主に正面と左右の三方向から見て美しく見えるように作られたアレンジメントのことです。壁を背にして飾ることなどを想定しており、テーブルの真ん中に置く四方見とは異なる視点が求められます。
この三方見のアレンジメントにおいて、最も重要視されるのが「奥行き」です。奥行きがなければ、作品は平面的で、どこか物足りない印象を与えてしまいます。逆に、奥行きがしっかりと表現されていれば、アレンジメントは豊かで立体的な表情を見せ、見る人を引き込む力を持つようになります。
では、具体的にどうすれば「奥行き」は生まれるのでしょうか。それは、「前後の高低差」と「花の向き」を意識することから始まります。
前後の高低差を意識する
アレンジメントを横から見た時に、手前(前面)の花は低く、奥(背面)の花は高く配置するのが基本です。しかし、ただ単に斜めのラインを作るだけでは、単調な印象になってしまいます。
大切なのは、リズミカルな高低差です。例えば、
- 前面: 短く切った花やグリーンを配置し、足元を引き締めます。器の縁が見えないように、やや下から上に向かって挿すことも意識しましょう。
- 中腹: アレンジメントの中心となるフォーカルポイント を作り、主役の花を配置します。ここは最も視線が集まる場所なので、華やかさを演出します。
- 後方: 背の高い花や枝ものを使い、全体の高さを決めます。
- 後方の花の斜め後ろ:ここに少しだけ低くお花を2~3本挿します。後ろに挿す花を少し短くするのは、なんだか勇気が必要ですが、この花のおかげで奥行きが生まれるのです。
このように、手前から奥に向かって波打つような高低差を作り、最後方を少し低くすることで、空間に奥行きができます。
花の向きで奥行きを演出する
もう一つ重要なのが、それぞれの花の「顔の向き」です。全ての花が真正面を向いていては、まるで記念写真のように整然としすぎてしまい、自然な奥行きは生まれません。
- 手前の花は少し上向きに。
- 中央の花はまっすぐ正面、あるいは少し斜め前に。
- 奥の花は少し横を向いたり、伸びやかに上を向いたり。
一つひとつの花が、それぞれ異なる方向を向いて会話をしているようなイメージです。そうすることで、アレンジメントの中に視線の流れが生まれ、自然と奥行きが感じられるようになります。
ラフルールの教室では、初級クラスを終える最終チェックの段階で、この「奥行き」がしっかり表現できているかを必ず確認します。それは、このスキルがお客様を魅了するアレンジメントに不可欠だと知っているからです。

2. 効果的に使いこなす「透ける・飛ばす・遊ぶ」
アレンジメントの基本的な骨格が出来上がった後、最後の仕上げに加えることで、作品全体の印象を劇的に変える魔法のようなスキルがあります。それが「透ける・飛ばす・遊ぶ」というテクニックです。
このスキルを使いこなすことで、作品に軽やかさ、立体感、そしてプロフェッショナルな雰囲気を加えることができます。これはアレンジメントを作る上で非常によく使うスキルであり、応用力を示す重要な指標の一つです。
「透ける」とは
「透ける」効果を持つ花材の代表格が、レースフラワーやスモークグラスです。これらの花材は、繊細な小花が集まっていたり、煙のような質感を持っていたりするのが特徴です。
この「透ける」花材は、アレンジメントの内側、中央付近に少し高めに挿すのがポイントです。そうすることで、レースフラワー越しに他の花が透けて見え、作品に奥行きとふんわりとした透明感が生まれます。もし、この花材をアレンジメントの外側に挿してしまうと、背景に透けるものが何もなくなるため、その効果を十分に活かすことができません。
「飛ばす・遊ぶ」とは
「飛ばす・遊ぶ」とは、スカビオサやグリーンベルのように、茎が細くしなやかで、自然な曲がりなどの「癖」がある花材を効果的に使う技術です。これらの花材を、アレンジメントの骨格から少し飛び出すように、まるで自由に遊んでいるかのように配置します。
このテクニックのポイントは、茎の自然なカーブを活かすことです。例えば、カーブが上を向くように挿せば、花が元気に伸びをしているような印象になります。逆に、下向きに垂れるように挿してしまうと、元気がなく弱っているように見えてしまうため注意が必要です。
「飛ばす」花材を効果的に使うことで、アレンジメントの中央や前面に立体感が生まれ、作品全体に動きとリズム感を与えることができます。決められた形の中にきっちり収めるのではなく、少しだけ「遊び」の部分を作ることで、見る人の心に残る、生き生きとした表情が生まれるのです。
これらの「透ける・飛ばす・遊ぶ」花材は、アレンジメントの最後に挿すことで、その効果を最大限に発揮します。それぞれの花が持つ特性を深く理解し、「浮かせて透かすように使う花」「飛ばして遊ばせる花」「しっかり埋めて安定感をもたらす花」といった役割を見極めて使いこなすことが、応用力を高める鍵となります。
「奥行き」と「遊び心」。これらの技術を身につけた先に、ラフルールが最も大切にしているもう一つの世界が広がっています。それは、作り手が意図する形に花を従わせるのではなく、むしろ自然の流れに身を任せるという、生き方にも通じる哲学です。
なぜ「流れに任せる」ことで、デザイン性の高い作品が生まれるのか?お花を通して「囚われない心」を学ぶとはどういうことなのか?
この続きは、技術の先にある物語を綴るnoteで、じっくりとお話ししています。
