「好き」を仕事にし続けるための花屋バイブル
〜現場スキルと経営戦略、20のレッスン~
いよいよ花屋の現場が最も慌ただしくなる季節がやってきます。クリスマス、そしてお正月。季節イベント商品の売上は天候や流行に左右されやすく、不確実性が高いという性質を持っています。だからこそ、この繁忙期を乗り切るための技術は、単なる制作スキルではなく、時間と品質を両立させる経営戦略そのものとなります。
現場では、どんなに忙しい状況下でも、お客様にお渡しする一つひとつの作品を完璧に仕上げるために、緻密な準備と確かな時短術が求められます。
このLesson4では、クリスマスリースとお正月飾りに焦点を当て、プロフェッショナルな品質を保ちつつ効率よく仕上げるための「ラフルール流の時短術と工夫」を解説します
リピート顧客が支える経営の安定性
花屋として事業を継続させるためには、「安定性・季節性」「高単価・低単価」「リピート性・単発的」といった性質の違う複数の売り上げの柱を持つことが極めて重要です。
ここで重要な役割を果たすのが、お花教室(レッスン事業)です。ラフルールでは、このお花教室を「安定」した収益をもたらす「リピート性」の高い柱の一つとして位置づけています。

- リピート性の高いカリキュラム構造
教室事業は、一度顧客を獲得すれば、継続的な受講が見込めます。ラフルールの教室は、まず体験レッスン(5,500円)というフロント商品から始まり、その後に本格的なバックエンド商品であるコースへと移行する仕組みです。 コースは段階的に設計されており、初級クラス(全15回)、中級クラス(全15回)と進み、その後も趣味として継続したい方向けの上級フリースタイルクラス(回数制限なし)が用意されています。
さらに、お花の仕事や花屋として独立を目指す方のためには「プロコース」も用意されています。単なるお花のスキルだけでなく、しっかり経営を学んでいただく実践的な内容のコースです。 - 経営の土台としての役割
季節イベントや短期出店によるお花の販売は、限られた期間に集中的な収益を生み出す「単発型」の業務です。一方で、教室事業は継続的な収入をもたらす「リピート型」の仕組みであり、資金繰りの安定に大きく貢献します。
さらに、教室を通じて「お花のある暮らし」を深く味わえるスキルを育む機会を提供することで、単なる技術習得を超えた、心の豊かさや「よりよく生きる力」へとつながる価値を届けることができます。こうした体験は、顧客との信頼関係を長期的に育み、ラフルールの世界観に共鳴する仲間を増やしていく土壌となります。
このように、単発的な収益と継続的な関係性をバランスよく設計する「仕組みづくり」こそが、ラフルールの本質的な強みのひとつです。

繁忙期を乗り切るための実践的な技術を身につけよう
慌ただしい年の瀬、街が光に包まれるとき、花屋の現場は戦場と化します。クリスマス、そしてお正月。この二大イベントを店頭販売でも教室事業でも
乗り切る技術は、単なる制作スキルではなく、時間と品質を両立させる経営戦略そのものです。
「季節を彩る」という言葉の裏側には、緻密な準備と、現場の混乱を抑えるための確かな時短術が求められます。どんなに忙しくても、ひとつひとつを完璧に仕上げなければなりません。
そしてそれは、お花教室のレッスンに参加される生徒さんが持ち帰るお花についても同じことが言えます。持って帰ったお花を家族に見せた時に、「なにこれ」とならないように。「わあ!素敵だね」と言ってもらえるように。
Lesson4では、クリスマスリースとお正月飾りを、効率よく、かつプロフェッショナルな品質で仕上げるための「ラフルール流の時短術と工夫」について解説します。

ラフルール流の時短術と工夫
クリスマスリース作りでは、「途中で時間が足りなくなる」「時間がかかりすぎる」「後半で材料が足りなくなる」という失敗がつきものです。また、お正月飾りでは、水引や松といった縁起物が、持ち運びの途中で「落下してしまう」という事態は絶対に避けなければなりません。
美しいデザインを実現しつつ、いかにして限られた時間内で、確かな構造と耐久性を持たせるのか。「現場のスキルを磨く」第1部の締めくくりとして、この繁忙期を乗り切るための実践的な技術を身につけましょう。
繁忙期を支える制作の法則
花材を最大限に活かし、確実に時間内に作品を仕上げるためには、手順と道具の使い方を徹底的に習得する必要があります。

1. クリスマスリース:グルーガンと巻きワイヤーの活用術
クリスマスリース作りで習得すべき核となる技術は、グルーガンと巻きワイヤーの使い方です。この二つの道具が使えるようになると、応用して様々なリース作りも楽しめるようになります。
- 時間管理の徹底(60分の壁)*レッスンの時間配分
クリスマスリース教室では、必ず60分で終わらせるため、作業ごとに時間管理を行います。例えば、大きなパーツをつける工程には25分程度、中くらいのパーツには10分程度、小さいパーツで仕上げる時間には10分程度を割り当て、全体の進捗を厳密に管理することが重要です。 - 素材の準備
まず、フレッシュな針葉樹を全て手のひらサイズに切り、2種類の針葉樹を混ぜておきく立体的な動きが楽しめます。 - 巻きワイヤーの法則
リース作りの基本として、切った材料を8等分に分け、ちょうど1周で巻き終わるように8分の1ずつ巻くと良いでしょう。ワイヤーを巻きすぎると、リースがキチキチに小さくなってしまうため、材料の上の方と下の方を1回ずつ巻く程度に留めます。 - パーツをつける順番
緻密で均一な仕上がりを目指すには、最後にグルーガンを使うのが効果的です。グルーガンでパーツを取り付ける際は、大きなパーツから貼っていくのが均一につけるコツです。 例えば、最初に松ぼっくりを5~7個全体に貼り、その後、別の大きなパーツを同じく5~7個全体に貼るという作業を何周も繰り返します。上から少しずつ完璧なデザインで詰めながら作ると、途中で時間切れになったり、後半で材料が足りなくなったりします。 - 最終仕上げのポイント
最後に、テーブルに置いた状態を上から眺めてリースの円の外周や内周から飛び出しているものをハサミでカットし、丸く整えることで完成度が高く見えます。カットした材料をグルーガンでリースの材料が少ない所に入れると、より緻密に仕上がります。

2. お正月飾り:落下を防ぐための確実な固定技術
お正月飾りは、水引や松など、取れては困るパーツが多いため、落下しないための構造的な工夫が求められます。

- 固定の二重構造
水引と松は、装飾の土台となるため、早めにつけ、絶対に落下しないように注意します。まずグルーガンで付けた後、さらにワイヤーで本体にくくりつけ、二重に固定することが重要です。 - パーツの取り付け順
つけるパーツは、大きい順です。小さなパーツは、最後に効果的に使用しましょう。最初につけると後からつける大きいパーツの下敷きになって見えなくなってしまいます。 - 仕上げ
グルーガンを使う際、糊が糸状に伸びて作品にかかってしまうことがあります。これは、糊の「切り方」に原因があることが多いです。糊をつけ終えたあと、グルーガンの先端をパーツから離すのではなく、パーツの内側に先端を軽く差し込むようにして、糸を2〜3回くるくると巻き付けるように動かします。すると、糸が自然に切れ、作品に余計な糊が残ることなく、美しく仕上がります。
この「糸の切り方」を習得することは、作品の完成度を高め、プロとしての品質を保つためにも欠かせない大切な技術です。
「大きなパーツから取り付ける」というルールの裏側にあるもの。
短時間でプロの品質を保つための工夫は、すべて「失敗を回避し、最高の結果を出すための合理的な手順」です。そしてそれは、店頭販売やイベント出店の不確実な売上を支える安定した土台、リピート性の高い教室事業を確立する、戦略的な経営判断へとつながります。
現場で技術を磨くことの意味、そして「好き」を仕事にし続けるための戦略と哲学。
次なるレッスン「Lesson5:知っておきたい花材の扱い方」も含め、この花屋バイブルの物語の続きを、ぜひNoteでご覧ください。